糖質制限ダイエットで死亡した?~「糖質制限」善か悪かの大バトル
糖質制限ダイエットに取り組み、約20kgの減量に成功したノンフィクション作家の桐山秀樹さんが、2016年2月6日に急逝しました。果たして糖質制限と突然死の間に因果関係はあるのでしょうか?糖質制限ダイエットは本当に安全で効果的と言えるのでしょうか?サンデー毎日の2016年3月6日号に、糖質制限についての大論争が掲載されました。
ここでは、その内容を、それぞれの具体的なテーマ別に、糖質制限賛成派と糖質制限懐疑派(反対派)の主張を対比する形でご紹介しておきます。尚、管理人は、自分が軽い糖質制限ダイエット(+運動)で17kgの減量に成功した人間であり、糖質制限賛成派であることをお断りしておきます。
桐山秀樹氏の死~糖質制限の安全性は?
糖質制限懐疑派の意見
糖質制限は寿命を縮めます。肥満や高血糖に悩んでいた人が糖質制限を始めると、みるみる体重が減って血糖値が下がる。こんなに劇的に効果が表れるなんて、素晴らしい方法だと皆が思う。目に見えてわかる効果があれば、人は信用するでしょう。しかし、そのことが寿命にどう影響を与えるかは誰も考えない。
(浜松医科大学名誉教授・高田明和氏)
たんぱく質の過剰摂取と心血管疾患発症率との間に相関関係がある。(※)
(※注:糖質制限をすると相対的に肉や魚などのたんぱく質の摂取量が増えるから)
(日本糖尿病学会の2013年提言)
糖質制限賛成派の意見
桐山さんが亡くなられたことは本当に残念ですが、糖質制限が原因ではないと思います。彼の著書によれば、2010年に気分が悪くなり、病院を受診して、200mg/dlを超える高血糖、肥満、脂質異常症を指摘された、と。その少し前に糖尿病網膜症にもなっていたようで、動脈硬化はかなり進行していたのではないかと考えられます。私は彼と会う度に循環器内科での画像診断を勧めてきました。というのは、血糖値が下がったと喜んでいましたが、現在の動脈硬化がどんな状態なのか、血液検査ではわからないからです。
(中略)
糖質制限より前の数年間で高血糖が続いていれば、心臓の血管は動脈硬化により詰まりやすくなっている可能性があります。糖質制限を始めるのは早ければ早いほどいいです。
(高雄病院理事長・江部康二氏)
管理人の意見
『糖質制限は寿命を縮めます』という高田明和氏の意見は、論理が飛躍していて根拠も不明です。『たんぱく質の過剰摂取と心血管疾患発症率との間に相関関係がある』に関しては、過剰に摂取したら、悪影響があっても不思議ではありません。糖質制限をする人がみんなたんぱく質を過剰摂取するわけではないので、これを糖質制限反対の根拠にするのは的外れな気がします。しかも、これに関しては「そんな相関関係はない」と否定する大規模な研究結果もあるそうです。
糖質制限の効果について
糖質制限懐疑派の意見
肉や魚などのたんぱく質は食べ放題といっても、そんなに摂りきれるものではなく、摂取総カロリーも減少する。体重減少や血糖値低下が、糖質制限によるものか総カロリー低下によるものか不明。
(女子栄養大教授・田中明氏)
糖質制限賛成派の意見
たしかに糖質以外はそれほど大量に食べられるものではない。だからこそ(糖質以外のものをしっかり食べれば)満足度が高い状態で続けられ、自然と適正体重まで落ちていく。
(高雄病院理事長・江部康二氏)
管理人の意見
田中明氏の指摘はたしかにいいポイントをついています。「糖質」はカロリーも高いので、糖質制限ダイエットをすると、カロリーを抑えるつもりはなくても自然と抑えられがちになるのはたしかです。果たして、通常食と糖質制限食でカロリーが全く同じときに、糖質制限食で本当痩せられるか?ということは江部先生にデータを出してもらいたいですね。ただ、たんぱく質の腹もちがよいのは確かなことで、筋肉維持の観点からも、たんぱく質がダイエッターに欠かせないの栄養素であるとは思います。
糖尿病との関連
福岡県久山町の40~79歳の住民を対象に行われた研究で、1988年には糖尿病患者の有病率は男性15%、女性10%だったのが、その後14年かけて糖尿病対策(運動・食事指導)を実施したところ、2002年には糖尿病の有病率は男性24%、女性13%に逆に増加してしまった。糖尿病対策の食事指導の内容は、日本糖尿病学会が従来から推奨している「糖質60%、脂質20%、たんぱく質20%」というカロリー制限食。これをどう見るか?
糖質制限賛成派の意見
運動療法で糖尿病が増えることは考えにくいため、食事指導に問題があったと捉えるのが自然。日本の医師は従来の理論に固執する傾向が強いのではないか。現在アメリカやイギリスの糖尿病学会では、糖質制限食も公式に選択肢の一つとして告知されている。
(国際医療福祉大学大学院教授・和田秀樹医師)
糖尿病の人は糖質制限食をしなければ、失明や透析、下肢切断などの合併症を防ぐことは困難。糖質制限食を取り入れたアメリカでは合併症が減少しているのに、日本では減っているとは思えない。なぜカロリー制限食ばかり押し付けるのか?
(高雄病院理事長・江部康二医師)
糖質制限懐疑派の意見
糖尿病による人工透析の導入数はこの20年で頭打ち。糖尿病患者数は増加しているので、合併症の発症率は相対的に減少しているので、合併症の発症率は相対的に減少している。実際には明らかに合併症の発症率が低下している調査結果もあり、食事内容の差異が発症率に影響しているとは言えない。
(日本糖尿病学会)
管理人の意見
糖尿病患者数の話と合併症の話がごっちゃになって分かりにくい議論になってしまっています。合併症のデータについてはさらなる研究とデータの精査が必要だと思いますが、そもそも日本で糖尿病の患者数が増加していることをもっと問題視すべきではないでしょうか?
糖質制限するとケトン体が増える
体内のブドウ糖が少なくなると、体は脂肪を分解してエネルギーに変えようとする。この脂肪分解の過程で「ケトン体」(脂肪酸とアミノ酸の不完全代謝産物)と呼ばれる物質が肝臓でつくられる。これは問題ないのか?
糖質制限賛成派の意見
ケトン体の濃度がいくら高くなってもインスリン(血糖値を下げる)作用があれば問題ない。
(高雄病院理事長・江部康二医師)
新生児や臍帯血(さいたいけつ)などのケトン体を測定すると、新生児で成人基準値の3~4倍、臍帯血などでは10~30倍だったのです。胎児や赤ちゃんもブドウ糖ではなくケトン体を主なるエネルギー源としていたということ。ケトン体は極めて安全な物質であるということが証明されたといってよい。
(宗田マタニティクリニック院長・宗田哲男氏
糖質制限懐疑派の意見
脂肪の代謝が進み、体内にケトン体が過剰に蓄積され、体が酸性に傾くことが気にかかる。
(東京慈恵会医科大・浦島充佳氏)・・・※浦島氏は”軽い糖質制限”賛成派
胎児と成人を一緒にするのは論理が飛躍しているのではないか。肝臓や筋肉に糖がストックされているため、大人は簡単に糖質不足には陥らない。しかし過度な糖質制限を行っていると体は恒常的に飢餓状態。体にストレスがかかることで長続きせずリバウンドしてしまうことも多い。
(おおたけ消化器内科クリニック院長・大竹真一郎氏)
管理人の意見
胎児が使っているのであれば、基本的にケトン体が安全な物質だということは言ってよいのだろうと思います。でもたしかに、それが大人にとっていくらあってもよいものかどうか?までは分かりませんね。
人間にとって理想的なエネルギー比率は?
『国民健康栄養調査で過去30年間のエネルギー比率を調べると、日本人の糖質はずっと60%。寿命が延びている現状を考えればいい数字ではないか?』(女子栄養大教授・田中明氏)
糖質制限賛成派の意見
約700万年の人類の歴史のうち、農耕が始まったのが約1万年前。(中略)日本では江戸初期に白米を食べる習慣が定着した。つまり精製された炭水化物を食べるようになったのは。ここ200年のこと。「脂質56%、たんぱく質32%、糖質12%」(※江部氏の提唱する「スーパー糖質制限食」)という糖質制限食の割合は、人類本来の食生活に近い比率。
(高雄病院理事長・江部康二医師)
糖質制限懐疑派の意見
過去30年と最近を単純には比較できない。必要糖質はその人の日々の運動量によって変わってくるはず。糖質を一律12%とか60%と決めつけるのはよろしくない。
(東京慈恵会医科大・浦島充佳氏)・・・※浦島氏は”軽い糖質制限”賛成派
管理人の意見
田中氏の言う、寿命が延びているから糖質60%が正しい、という考えはおかしいと思います。なぜなら、平均寿命が延びているのは、エネルギー比率よりもむしろ医療の進歩が大きな要因だと考えられるからです。「決めつけるのはよろしくない」という浦島氏の意見はたしかに正論ですが、もう一方踏み込んだ見解を聞きたいところ。個人的には、江部先生の言う古代の人たちの食生活が正しい、という主張に説得力を感じます。
まとめ
皆さんの考えはいかがでしょうか?糖質制限ダイエットについて、有識者がこのような形で意見を闘わせるのはとても興味深い企画だったと思います。現代医学ではまだ解明できていないところもあり、どちらの主張が本当に正しいかは実際のところ分かりません。
ただ、一つ個人的な経験から言わせてもらうと、管理人の場合、一食のご飯の量を徐々に減らし最終的に100gにするという、ごくごく軽い糖質制限でダイエットは大成功しました。これは江部先生の言うところの「プチ糖質制限食(=夕食のみ糖質を避ける)」よりもずっと軽いものです。糖尿病の治療をするような深刻な方はともかく、一般のダイエッターは、管理人のようにごく軽い糖質制限を試してみても損はないのではないでしょうか?
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