酵素とは?
「酵素」という言葉は、洗剤の「酵素パワー」などというフレーズと共に一般の人々にも馴染み深くなってきましたが、その働きをご存知でしょうか?
人体を動かすには栄養が必要です。その栄養は、食事から取り込まれますが、食事で摂る栄養素はもちろん人体そのものではありません。そこで、その取り込んだ栄養を、消化・吸収を経て人体が使える状態にする必要があります。その際に必要になるのが「酵素」です。
酵素の働きとは?
酵素の働きを感じられる分かりやすい例を挙げてみましょう。ご飯を噛んでいると、だんだん甘くなってきます。これは、ご飯に含まれるでんぷんが、唾液から作られる「アミラーゼ」という酵素によって分解され、糖になることで甘みが出るからです。ご飯をよく噛むと消化によいと言われますが、その理由の一つは、このアミラーゼが、でんぷんを消化することを助けてくれるからです。
アミラーゼは、でんぷんにのみ作用する酵素です。また、でんぷんでもそののごく一部にしか反応しません。そのため、でんぷんを分解する酵素は体のほかの部位(膵臓)からも分泌されます。尚、たんぱく質を分解する酵素としてはペプシンやトリプシン、脂肪を分解する酵素としてはリパーゼというものがあります。
このように、「酵素」は決められた物質の特定の部位にしか反応しません。この関係は「鍵と鍵穴」と似ています。世の中に「鍵(酵素)」はたくさんありますが、どんなに似て見えても、「鍵穴(反応する物質)」に合う「鍵(酵素)」は1つだけです。
酵素が働く条件とは?
このように重要な働きをしている「酵素」ですが、うまく働くためには二つの厳しい条件があります。それは「温度」と「pH(酸・アルカリの度合い)」です。酵素によって最適な温度とpHは異なりますが、体内に存在する酵素が最適と感じる温度は、体温とほぼ同じ37度くらい。pHは、胃酸に含まれる酵素は酸性を好み、それ以外の酵素は中性付近を好むのが一般的です。
困ったことに、酵素は、最適な温度とpHを一度でも逸脱すると、もう元のような仕事をすることはできません。例えば、先の唾液アミラーゼの例であれば、中性である口腔内ではでんぷんを分解する力を発揮しますが、食べ物とともに胃へ移動すると、酸性度の強い胃酸によって変形してしまいます。その後、胃から小腸に移動して中性の環境に戻っても、もうでんぷんを分解する力はないのです。小腸では、酵素は一般のたんぱく質(アミノ酸)として消化・吸収されることになります。
このように、「酵素」が働くための条件は厳しいものです。「酵素」と聞くと、万能なイメージを持っている人が多いかもしれませんが、酵素の仕事は細分化されており、さまざまな酵素が適材適所で働いています。このような仕組みが私たちの体の中にあり、生命を営むことを助けてくれているというのはすごいことですね。