全ての女性にリスクがある病気「乳がん」。もちろん初めて発症するときも怖いですが、それ以上に、手術して回復したとしても転移・再発しやすい、特に骨に転移しやすいという恐ろしさがあります。
ここでは、乳がんが骨転移する場所、骨転移したときの症状や治療法など、乳がんと骨転移の関係について知っておきたいことをご紹介します。
乳がんは骨転移しやすい
すでに述べたように、乳がんは骨転移しやすいという特長があります。骨転移は、最初の手術後から10年経った後でも生じる可能性があり、また骨転移すると療養期間が長くなる傾向があるため、少しでも早期に転移を発見することが大切です。
骨転移は、乳がんの細胞が体内の血液やリンパ液の流れにのって骨に入ることによって生じ、骨に入った乳がん細胞は分裂し増殖を繰り返すことで大きくなります。厄介なことに骨転移しても痛みがほとんどない時もあり、最初は気付きにくい場合が多いです。
主に転移する場所としては体幹部分で、具体的には頚椎・胸椎・腰椎など背骨部分の椎骨や、頭蓋骨・上腕骨・助骨・骨盤・大腿骨などです。腕の肘から手までの部分や、足に転移することはほとんどありません。
乳がんが骨転移する確率は?
乳がんによって転移したがん細胞の全てが増殖・成長するわけではなく、体の免疫反応や、抗がん剤・ホルモン療法などにより、がん細胞の成長が阻まれてなくなっていく場合もあります。しかし、乳がんは約30%の確率で骨に転移します。
通常乳がんを最初に発症した際、手術や放射線治療、抗がん剤などの化学療法を行います。また、治療して回復した後は定期的な検査を行い、医師の指示通りに薬を服用するでしょう。さらに、がん細胞が再発しないため生活面において食事などの栄養管理や、身体的な症状をコントロールするケア・不安や悲嘆を緩和する心理的ケアを行うことでしょう。しかし、そのように再発予防のために様々な治療を行っていたとしても、残念ながら骨転移は生じることがあります。
乳がんが骨転移した時の症状とは?
乳がんの骨転移は主に体幹部分の骨に生じますので、体の痛みが生じる箇所によって、どの骨に転移した可能性があるかを察することができます。腰痛がある場合は腰椎や骨盤、背中の痛みがある場合は胸椎、股関節や太ももの痛みがある場合は大腿骨、腕の痛みは上腕骨に転移していることが考えられます。
また、骨転移した場合、体重のかかる部分の骨が弱くなりますので、腰椎・胸椎の圧迫骨折や大腿骨の骨折など、かなり激しい痛みを伴う大きな骨折をすることがあります。
さらに、脊髄の骨転移は脊髄の圧迫により手足のしびれや麻痺が生じます。緊急に治療しないと、しびれや麻痺が残ってしまい回復しなくなる可能性がありますので、直ちに治療することが必要です。
乳がんが骨に転移すると、骨からカルシウムが溶け出し、血液中のカルシウム濃度が高くなります。その結果、異常に喉が渇いたり、胃がムカムカしたり、いつもより尿の量が増えたり、お腹が張る感じがしたり、便秘になったりします。このような症状に気付いたら要注意です。そのままにしておくと、激しい脱水症状や腎臓機能の低下につながります。
乳がんが骨転移した時の治療法とは?
一般に、がんの進行の抑制や症状緩和のために、抗がん剤治療や、HER2(ハーツー ※たんぱく質の一種)陽性の人対象の「抗HER2療法」を行います。
また、閉経前の人は「LH-RHアゴニスト製剤」、閉経後の人は「アロマターゼ阻害薬」等、それぞれに適したホルモン剤を使用するホルモン療法もあります。
転移による痛みを緩和するためには、消炎鎮痛薬や麻薬系鎮痛薬などの使用や、骨強度の回復や骨転移による痛みの軽減のため放射線治療も行います。
さらに、骨転移による痛みや骨折の頻度の減少、高カルシウム血症を改善するための治療として、ゾレドロン酸などを含むビスフォスフォネート薬を点滴で使用します。その際、腎臓機能低下や脱水症状予防のため、水分などの輸液を行い副作用を軽減させます。
乳がんが骨転移したかどうかの検査方法とは?
血液検査では、病気の活動性を表す腫瘍マーカーがの数値が上昇している場合、病変の出現が考えられますので、精密検査を受ける必要が生じます。また、転移している箇所を調べるため、スクリーニング検査により全身をチェックできます。
一度で全身の骨を調べることができる検査としては、PET検査やPET-CT検査、骨シンチグラフィ検査があります。骨シンチグラフィ検査はわずかな骨移転も診断することができ、PET検査やPET-CT検査は骨転移以外のがん病巣を診断することができます。さらに、骨転移の部位や範囲を診断することができるMRI検査では小さな転移も見逃すことなく診断できます。
骨転移が進んでいる場合は、溶骨性骨転移か造骨性骨転移かを診断するため骨X線写真の検査を実施します。
しかし、残念ながら、定期点検を受け全ての検査を行っても完璧な検査はないため、どうしても見つからない場合が若干あります。そのような、骨転移が生じているのに異常を示さない現象を偽陰性と言います。
一度乳がんにかかった方は、1ヶ月毎の精密検査を受けると共に、痛みを感じたら直ぐに受診することをお勧めします。