「甲状腺」は多くの人にとってあまり馴染みがない臓器かもしれません。しかし、実は甲状腺の病気にかかっている人数は糖尿病の患者数と同じくらい多く、国民病とも言われています。だるさやイライラを感じる、汗をかきやすい、疲れやすいなどという人は、もしかすると甲状腺疾患に悩まされているのかもしれません。ここでは、甲状腺の代表的な病気であるバセドウ病と橋本病について、それらの違いや症状についてご紹介します。
目次
甲状腺とは?
甲状腺は、喉の中央あたりにあり、蝶ネクタイのようの形をしています。厚みは約1㎝、横幅は2~3㎝、長さは4~5㎝、重さはなんと約10kgもあります。かなり大きいのですが、筋肉に覆われているため手で触っても感じませんし、仮に皮膚を取ったとしても、目に見えるところにはありません。
甲状腺の働きは、簡単に言うと、血中にホルモンを分泌して、代謝を正常に保つということです。甲状腺が分泌するホルモン(甲状腺ホルモン)の量が増えると代謝が高まり、減ると代謝が低下します。
甲状腺の代表的な病気~バセドウ病とは?
甲状腺の機能が過剰になると起こるのが「バセドウ病」です。「甲状腺中毒症」または「甲状腺機能亢進症」とも呼ばれます。甲状腺の病気は全般的に女性がかかりやすく、バセドウ病の発症率も男性:女性=1:4です。
甲状腺ホルモンを調節するために脳から送られる指令のことを甲状腺刺激ホルモンと呼びます。人間の体は、本来身を守るためにウイルスに対する抗体を作りますが、ある抗体は、甲状腺刺激ホルモンをウイルスと間違えて攻撃してしまうことがあります。そうなると、甲状腺ホルモンが過剰に分泌され、その結果、バセドウ病が起きてしまいます。
パセドウ病は適切に治療すれば良くなります。しかし、放っておくと、低栄養状態になって心不全や肝臓の異常を招いてしまうので注意が必要です。また、感染などのストレスを感じたとき、症状が一段と悪化することもあります。発生する症状は性別や年代で異なりますが、以下が主な症状です。
症状1:首や喉が腫れる
首の前にある甲状腺が過剰に働きすぎて、首や喉が腫れてきます。左右ほぼ同じくらいの大きさで腫れますが、腫れの大きさには個人差があり、目立つ人もいればほとんど分からない人もいます。ただし、腫れて痛みが生じたり、食事を摂ることができないといったことはなく、生活への支障はありません。
症状2:目が飛び出てくる
眼球を動かす筋肉(外眼筋)と、眼球の後ろにある脂肪組織が大きく腫れ、眼球が前に押し出された状態になります。目の向きが合わなくなったり、二重に見えたり、視力が低下して眼精疲労や頭痛が生じたりすることもあります。目の飛び出し具合は大抵それほどひどくなく、治療が必要になる人は5%程度です。この症状を特に「バセドウ眼症」とも呼ぶこともあります。
症状3:体重が減少する
甲状腺ホルモンが過剰に分泌されると、全身の細胞が活発になって、体の機能がスピードアップして働きます。具体的には、心臓の動きが早くなって、運動したときのような動悸がしたり、脈が早くなったり不規則になったりします。また、腸の動きも早くなって、排便の回数が増えたり、カロリー消費が早くなるため体温が上昇したりもします。そのため、特別な活動をしなくても体重が減少していきます。
症状4:抜け毛が多くなる
人間の髪の毛は成長しながら太くなり、ある程度太くなると自然に抜け、また新しい髪の毛が生えてきます。バセドウ病になるとこの髪の毛のサイクルが早くなるため、髪の毛が太くなる前に抜け、その結果抜け毛が増えます。また細い髪の毛の比率が多くなって、髪の毛のボリュームがなくなり、薄くなったと感じることもあるでしょう。ただしこの変化は比較的ゆっくりであるため、気が付かなかったり、他の原因のせいであると勘違いすることもあるかもしれません。
症状5:皮膚疾患・月経異常・精神的疾患など
他にもさまざまな症状が現れることがあります。一つには、皮膚のかゆみや湿疹、白斑、皮膚の黒ずみ、爪の変形などの皮膚疾患です。また、甲状腺機能は卵巣や女性ホルモンにも影響を与えるため、過少月経や月経不順、無月経(閉経ではない)などの月経異常が起こることもあります。さらに、体の代謝だけでなく神経も高ぶるため、イライラしたり、集中力がなくなったり、落ち着きがなくなったり、うつ気味になったりなどの精神的疾患も発症することがあります。
甲状腺の代表的な病気~橋本病とは?
甲状腺の機能が過剰になるパセドウ病とは反対に、甲状腺の機能が低下すると起こるのが「橋本病」です。「甲状腺機能低下症」とも呼ばれています。かかりやすいのは30~60才で、男女比率は男性:女性=1:9です。
本来、体には外部から入ってくる異物の侵入を排除しようとする免疫システムがあります。しかし、ときにこのシステムが正しく働かず、誤って自分の体の一部を攻撃してしまうことがあります。その結果、甲状腺の細胞を壊してしまい、ホルモンが十分分泌できず、橋本病が発症します。以下が橋本病の主な症状です。
症状1:首が腫れる
首が腫れ、下を向いたとき圧迫感があったり、首が太く見えたりすることがあります。ただし痛みはなく日常生活に支障が出るほどではありません。最初のうちはほとんど症状がなく、病気になっていることに気づかない人も多くいます。腫れの程度には個人差がありますが、触診でやっとわかるのが半数程度。つまり、橋本病で甲状腺が腫れていても大半は気づかない程度の腫れです。また、人によっては甲状腺が萎縮して小さくなることもあります。
症状2:体重が増える
甲状腺ホルモンが少なくなるため、代謝が低下してあまり栄養を必要としなくなり、体の働きがスピードダウンします。その結果、胃腸の働きが悪くなって、食欲が落ちます。食欲が落ちると普通は体重が減るように思えますが、重症の橋本病では、代謝が落ち過ぎた結果、体外への水分の排出がうまくいかず、全身がむくみ、体重が増えてしまうのです。
症状3:むくみ
上の理由でむくみが発生した結果、軽い場合は朝起きたとき手や顔にこわばりを感じます。また、舌がむくんでろれつがうまく回らず話しにくかったり、喉の粘膜がむくんで声がしゃがれたり低くなったりすることがあります。重い場合は唇が厚く腫れたり、まぶたや頬が腫れて下がったりすることもあります。ただし、大抵は軽い症状で見つけることができます。「粘液水腫」とも呼ばれています。
症状4:冷え性・貧血・月経不順・精神的疾患など
代謝の低下とともに熱の産生も低下し、全身の血液循環が悪くなります。その結果、冷え性や貧血などが起こります。筋力も低下するため、ふくらはぎがつりやすくなることもあるでしょう。また、女性は月経過多や無排卵など月経不順が起こることもあります。加えて、脳の働きも低下するため、集中力や考える力が落ちる、物忘れがひどくなる、意欲や気力がなる、動作が緩慢になる、朝起きられない、昼間でも眠くなる、などの精神的疾患が起こることもあります。
まとめ
甲状腺の病気の初期症状ははっきりしておらず、進行もゆっくりであるため気付かないことが多いものです。また、バセドウ病も橋本病も、更年期障害や糖尿病などと似ている症状があるため、他の病気に間違われることもよくあります。しかし放置すると心不全や肝臓の異常を招く恐ろしい病気です。気になる症状があったら、早めに甲状腺専門医を受診しましょう。